第1班は、「スーフィズム的イスラーム像の構築」を主要研究テーマとして掲げています。
ずっと以前には、「ウラマー対スーフィー」といった図式が語られていた時代がありました。それぞれ、イスラーム世界の大伝統と小伝統を担う存在、としてです。しかし実際には、伝統的イスラーム世界の中核には常にウラマーとスーフィー導師がいて、彼らは多くの場合、重なり合っていました。スーフィズムに志した民衆を指導する知識人層(スーフィー導師)は、同時にウラマーだったのです。
同じ人物が「ウラマー兼スーフィー」でない場合も、ウラマーとスーフィーは、対立するよりもむしろ協調・協力するのが一般的でした。彼らが、伝統的なイスラームの知的資源を担ってきたといえます。
この伝統的イスラーム知識人に対抗する形で、近代のイスラーム主義的潮流の多くが生まれてきています。とくにスンナ派では、伝統的なイスラーム教育でなく、いわゆる世俗教育を受けた人々が、イスラーム主義を担っていきます。
人々の耳目はイスラーム主義者たちに集まりがちですが、伝統的イスラーム知識人達の役割はもう終わってしまったのでしょうか。事実はそうではありません。彼らは現在も積極的に活動していますし、引き続き多くのイスラーム教徒の支持も受けています。
イスラーム世界の実態に即した、よりバランスのとれた像を描くためにも、ウラマー・スーフィーを、もう一度きちんと根幹から見直してみる必要があります。第1班は、とくにスーフィズムに力点を置きつつ、この問題に取り組んでいきます。
2022年度から再出発したKIASのなかで、ウラマー・スーフィー研究班は、以下のような研究プロジェクトを計画しています。
第一は、これまでの思想研究・人類学・歴史学の共同研究を踏まえた「文学・音楽を用いた多角的スーフィズム研究」です。2021年度後半から始めた、トルコのウスキュダル大学スーフィズム研究所との国際共同研究では、トルコを事例に、形而上学~文学~音楽~(舞踊などの)儀礼をひとつながりのものとしてとらえ、さらに学際的なスーフィズム研究を推進します。
第二は、インドネシア・パキスタン・トルコなどにも目を配った「穏健イスラームの探究」です。従来のイスラーム像は、戒律遵守・イスラーム法重視といった観点から作られてきました。近代以降のイスラーム主義者たち自身がこの観点を強く主張してきたことも、このイメージを強化してきました。他方、上記の国々をはじめとして、より現地の伝統文化に根差した別種のイスラーム理解を模索する動きがみられます。この際、スーフィズムや聖者信仰が、このイスラーム理解に大きく関わっています。スーフィズムに基礎を置く新しいイスラーム像の構築を目指します。
第三は、モスクを中心とした、滞日ムスリムと地域社会の共生に関する研究です。本研究は、上述の穏健イスラームの研究と密接に関わってくるでしょう。世界各地で、ムスリムたちと現地社会は共生関係を築くことを、ますます強く求められています。日本も例外ではありません。ほかの国々の事例を参照にしつつ、日本において多文化共生をいかに実現していくのかを検討していきます。
【主要な研究課題】
本研究班では長年、フランスのCNRSと共同研究を進めています。CNRSのグループは、中東だけでなく、中央アジアのスーフィズム・聖者信仰に関する豊富な研究蓄積をもっています。彼らの知見を、地域間比較に活かすことを考えています。
同時に、韓国の釜山外国語大学地中海研究所とも長い交流があり、地中海研究・イスラーム世界研究を推進しています。
これらふたつの連携機関とは毎年ジョイントセミナーを開催し、ASAFASの大学院生が積極的に発表を行っています。
また、トルコのウスキュダル大学スーフィズム研究所とも、2021年度から新しく、スーフィズムの総合的理解に関する国際共同研究を始めました。積極的にタイアップしながら、トルコにおける現地調査、研究会・ジョイントセミナーを実施していきます。
ずっと以前には、「ウラマー対スーフィー」といった図式が語られていた時代がありました。それぞれ、イスラーム世界の大伝統と小伝統を担う存在、としてです。しかし実際には、伝統的イスラーム世界の中核には常にウラマーとスーフィー導師がいて、彼らは多くの場合、重なり合っていました。スーフィズムに志した民衆を指導する知識人層(スーフィー導師)は、同時にウラマーだったのです。
同じ人物が「ウラマー兼スーフィー」でない場合も、ウラマーとスーフィーは、対立するよりもむしろ協調・協力するのが一般的でした。彼らが、伝統的なイスラームの知的資源を担ってきたといえます。
この伝統的イスラーム知識人に対抗する形で、近代のイスラーム主義的潮流の多くが生まれてきています。とくにスンナ派では、伝統的なイスラーム教育でなく、いわゆる世俗教育を受けた人々が、イスラーム主義を担っていきます。
人々の耳目はイスラーム主義者たちに集まりがちですが、伝統的イスラーム知識人達の役割はもう終わってしまったのでしょうか。事実はそうではありません。彼らは現在も積極的に活動していますし、引き続き多くのイスラーム教徒の支持も受けています。
イスラーム世界の実態に即した、よりバランスのとれた像を描くためにも、ウラマー・スーフィーを、もう一度きちんと根幹から見直してみる必要があります。第1班は、とくにスーフィズムに力点を置きつつ、この問題に取り組んでいきます。
2022年度から再出発したKIASのなかで、ウラマー・スーフィー研究班は、以下のような研究プロジェクトを計画しています。
第一は、これまでの思想研究・人類学・歴史学の共同研究を踏まえた「文学・音楽を用いた多角的スーフィズム研究」です。2021年度後半から始めた、トルコのウスキュダル大学スーフィズム研究所との国際共同研究では、トルコを事例に、形而上学~文学~音楽~(舞踊などの)儀礼をひとつながりのものとしてとらえ、さらに学際的なスーフィズム研究を推進します。
第二は、インドネシア・パキスタン・トルコなどにも目を配った「穏健イスラームの探究」です。従来のイスラーム像は、戒律遵守・イスラーム法重視といった観点から作られてきました。近代以降のイスラーム主義者たち自身がこの観点を強く主張してきたことも、このイメージを強化してきました。他方、上記の国々をはじめとして、より現地の伝統文化に根差した別種のイスラーム理解を模索する動きがみられます。この際、スーフィズムや聖者信仰が、このイスラーム理解に大きく関わっています。スーフィズムに基礎を置く新しいイスラーム像の構築を目指します。
第三は、モスクを中心とした、滞日ムスリムと地域社会の共生に関する研究です。本研究は、上述の穏健イスラームの研究と密接に関わってくるでしょう。世界各地で、ムスリムたちと現地社会は共生関係を築くことを、ますます強く求められています。日本も例外ではありません。ほかの国々の事例を参照にしつつ、日本において多文化共生をいかに実現していくのかを検討していきます。
【主要な研究課題】
- 多角的スーフィズム研究
- 穏健イスラーム研究
- 周縁イスラーム世界研究
- 滞日ムスリム・モスクをめぐる多文化共生研究
- イスラーム世界各地のイブン・アラビー学派研究
- 中東とイスラーム世界各地のウラマー・スーフィーの比較研究
- 非アラブにおける穏健イスラームの研究-インドネシア・パキスタン・トルコの事例から(科研A、課題番号 22H00034、2022-26年度)
- イスラーム主義に対抗する穏健イスラームの試み-インドネシアの「宗教的穏健化」政策を中心に(平和中島財団、2022[-23]年度)
- スーフィズムの総合的研究-思想・文学・音楽・儀礼を通して(国際共同(B)、課題番号21KK0001、2021-26年度)
- イスラームの宗教施設と都市空間との融合:モスクに集うムスリムたちの日本社会との共生(鹿島学術振興財団、2022年度)
本研究班では長年、フランスのCNRSと共同研究を進めています。CNRSのグループは、中東だけでなく、中央アジアのスーフィズム・聖者信仰に関する豊富な研究蓄積をもっています。彼らの知見を、地域間比較に活かすことを考えています。
同時に、韓国の釜山外国語大学地中海研究所とも長い交流があり、地中海研究・イスラーム世界研究を推進しています。
これらふたつの連携機関とは毎年ジョイントセミナーを開催し、ASAFASの大学院生が積極的に発表を行っています。
また、トルコのウスキュダル大学スーフィズム研究所とも、2021年度から新しく、スーフィズムの総合的理解に関する国際共同研究を始めました。積極的にタイアップしながら、トルコにおける現地調査、研究会・ジョイントセミナーを実施していきます。
- ウラマー・スーフィー研究班責任者
- 東長 靖(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 教授)
- ウラマー・スーフィー研究班プロジェクトメンバー
- 赤堀 雅幸(上智大学グローバルスタディーズ研究科 教授)
- イドリス・ダヌシュマン(立命館大学大学院国際関係研究科 准教授)
- 今松 泰(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 特任准教授)
- 小倉 智史(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 准教授)
- 澤井 真(天理大学宗教学科 准教授)
- ティエリ・ザルコンヌ(フランス国立科学研究センター 主任研究員)
- 中西 竜也(京都大学人文科学研究所 准教授)
- 二宮 文子(青山学院大学文学部 教授)
- 二ツ山 達朗(香川大学経済学部 准教授)
- 藤井 千晶(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 客員准教授)
- 丸山 大介(防衛大学校 准教授)