イスラーム地域研究センター(Center for Islamic Area Studies, 略称KIAS[カイアス])は、2022年4月1日から新しい歩みを始めます。今後4年間の研究目標を新たに「イスラーム地域研究の新地平:ポストコロナ期における深化と展開」と設定し、下記の3班構成で研究を進めていきます。

[第1班]研究テーマ「スーフィズム的イスラーム像の構築」
 第1班の研究内容は、大きく次の二つに分かれます。第一は、インドネシア・パキスタン・トルコなどにも目を配った「穏健イスラームの探究」です。第二は、これまでの思想研究・人類学・歴史学の共同研究を踏まえた「文学・音楽を用いた多角的スーフィズム研究」です。スーフィズムを核に据えて、イスラーム世界をとらえ直します。

[第2班]研究テーマ「イスラーム世界の政治・法・国際関係研究」
第2班では、コロナ期におけるグローバル化の不均衡化や「新冷戦」とも呼ばれる国際社会の変容の中で、イスラーム諸国およびイスラーム世界全体が、政治、法、国際関係においてどのような変化しているのか、またどのような新しい胎動がおきているのかについて、思想と政治・社会との動態的関係に着目しながら研究と解析を進めていきます。また、それを通じて、地球社会との相関におけるイスラーム地域研究の意義と視座をいっそう磨いていくよう努めます。

[第3班]研究テーマ「ポスト資本主義時代のイスラーム経済」
第3班の研究では、イスラーム世界で著しい発展を続けているイスラーム経済に注目し、様々な課題が山積している今の資本主義に対して、イスラーム経済がどのようなオルタナティブモデルを提供できるのかを理論と実態から解明することをめざします。

 本センターは、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科に附属するセンターとして、2006年に開設されました。その後、マレーシア国民大学との連携による「ハダーリー・イスラーム文明研究センター」、トルコ・ウスキュダル大学との連携による「ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センター」が、同様に研究科附属センターとして設立され、本センターと協力しながら、京大のイスラーム地域研究を推進しています。
 国際的な学術交流も、センター設立の当初から積極的に推進してきました。現在は、ダラム大学[英]、フランス国立科学研究センター(CNRS)[仏]、ウスキュダル大学[トルコ]、マレーシア国民大学(UKM)[マレーシア]、国立イスラーム大学(UIN)[インドネシア]、釜山外国語大学(IMS)[韓国]、その他と恒常的にジョイントセミナーなどを実施しています。
 これらの学術交流に基づいて、国際研究集会(ワークショップ、シンポジウム、フォーラムなど)を開催して、研究成果の公開を促進しています。実施場所は日本に限らず、必要と目的に応じて、協定を締結した研究機関が置かれている国で実施して、研究成果を海外の機関からも発信します。また、コロナ禍のおかげで私たちが習熟したオンラインをも積極的に活用していきます。

 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科では、2004年の改組によって「グローバル地域研究専攻」が設立され、その中に「イスラーム世界論講座」が誕生しました。本センターの実施する学術研究と有機的に結びついて、大学院教育がおこなわれ、若手の育成を進めてきています。
 イスラーム地域研究センターの大きな目的の一つは、アジア・アフリカ地域研究研究科と連動しての若手研究者の育成です。若手研究者が現地調査・共同研究、国際会議等へ参加できるよう、積極的に支援します。また、人材を研究面で育成することだけではなく、若手が就くことのできるポジションを増加させることも重要です。本センターは、関西ではイスラーム/イスラーム世界、現代中東に関する最大の研究・教育拠点となっており、これからも有為な人材を産み出し続けたいと願っています。
 このように順調に発展することができたのは、皆さまの温かいご支援の賜物です。これまでのご支援に、深く感謝申し上げます。

 この約2年間のコロナ禍の間に、私たちはさまざまなことを経験してきました。無力感に苛まれるのでなく、私たちはこのポストコロナの時代を、イスラーム世界のもつ叡智とともに、新しく切り拓いていかなければなりません。ますます進展するグローバル化と共に、学術分野・研究領域としての地域研究も、世界の重要なアクターであるイスラーム世界の研究も、いっそう責務が重くなっていきます。本センターの新しい旅立ちにあたって、皆さま方のいっそうのご支援、ご鞭撻をお願い申し上げる次第です。

イスラーム地域研究センター長
東長 靖