• 第3回SIAS/KIAS-CNRS国際合同セミナー"Sufism, Saint Veneration and Tariqa Movements in the Islamic World"
    (2016年1月31日 於京都大学)


    日時:2016年1月31日(日)13:00-18:00
    場所:京都大学吉田キャンパス本部構内総合研究2号館4階会議室(AA447)
    共催:
    京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)
    上智大学イスラーム研究セン ター(SIAS)
    CNRS(フランス国立科学研究センター)
    京都大学アジア研究教育ユニットおよび科研費基盤(B)「南アジア諸語イス ラーム文献の出版・伝播に関する総合的研究」(研究代表者:東長靖)

    【プログラム】
    13:00-13:20 Opening Remarks

    13:20-14:00 Quentin GIROUD (CNRS)
    Zikr and Sema Rituals of the Contemporary U??aki-Halveti Sufi Order of Turkey

    14:00-14:40 Kie INOUE (Tokyo University)
    Ruzbihan Baqli Shirazi's Theory of Love

    14:55-15:35 Rachida CHIH (CNRS)
    Sufism in the Early Modern Period: Ahmad al-Qushshashi (d. 1661) and the "Medinese School"

    15:35-16:15 Daisuke MARUYAMA (National Defense Academy of Japan)
    Meaning of Wasita (Intermediary): Different Interpretations between Sufis and Salafis in Contemporary Sudan

    16:30-17:10 Thierry ZARCONE (CNRS)
    Visual hagiography in Northern Africa: The case of Ahmad al-Tijani

    17:10-17:40 Discussion

    17:40-18:00 Closing Remarks




 SIAS/KIASの連携研究会である「スーフィズム・聖者信仰」研究会は、CNRS(フランス国立科学研究センター)との合同セミナーを、京都大学アジア研究教育ユニットおよび科研費基盤(B)「南アジア諸語イス ラーム文献の出版・伝播に関する総合的研究」(研究代表者:東長靖)と共催で、第3回SIAS/KIAS-CNRS国際合同セミナー"Sufism, Saint Veneration and Tariqa Movements in the Islamic World"と題して開催した。

 第一発表では、Quentin Giroud氏が現代トルコにおけるウッシャキー・ハルヴェティー(Ussaki Halveti)教団のズィクル及びセマー実践に関して発表を行った。Giroud氏はまず教団の歴史と現状を説明した後、現地調査によるデータや儀礼の様子を収めたビデオも上映しながら、同教団のズィクル及びセマー儀礼実践の背景及び実践風景を詳細に述べた。発表において Giroud氏は、同教団が儀礼のトルコ性を強調する点等が、親イスラーム政権であるAKP(公正発展党)の宗教・文化政策とも親和性をもつことなどを指摘した。質疑応答では彼らの自称する「トルコ性」の定義と実態や、ズィクル実践法におけるカーディリー教団との類似性について議論が交わされた。

 第二発表では、井上貴恵氏が中世のスーフィー思想家であるルーズベハーン・バクリー(Ruzbehsn Baqli, d. 1209)の 愛(‘ishq)論について発表し、ルーズベハーンの愛論の位置づけを図った。スーフィーは神への「愛」を通常、?ishqではなくmahabbaという言葉で伝統的に表し、前者は専ら世俗の愛を指す言葉だった。しかしルーズベハーンは ‘ishを神への愛として積極的に評価し、一見世俗的とも思われる人間に対する愛は究極的には神の愛と繋がり、愛する者(‘Ashiq)とは神の愛に繋がる選良と規定する。ルーズベハーンの愛論は、?ishqを神への愛として扱う点においてハッラージュと、愛を神へ帰するものと規定する点においてイブン・アラビーの存在論とそれぞれ類似する。井上氏はルーズベハーンをハッラージュとイブン・アラビーの中間に位置する思想家として評価した。質疑応答では他のスーフィー思想家らによる ‘ishqの定義等について議論が交わされた。

 第三発表ではRachida Chih氏が、17-18世紀にマッカとマディーナをハブとして形成されウラマー/スーフィーのネットワークを通じて、イブン・アラビーの思想の強い影響下で発展したインドの神秘主義伝統がどのようにしてエジプトのスーフィズム伝統と統合されていったのかを論じた。具体的にはアフマド・クシャーシー(Ahmad al-Qushashi, d. 1661)に焦点を当て、その時代背景や人的つながりを確認したうえで、聖性の継承をめぐる二つの概念―聖者の封印とムハンマドの道―を彼がどのように継承・発展させたのか、またそれが18世紀のスーフィズムの刷新にどのようにつながっていったのかが考察された。

 第四発表では丸山大介氏が現代スーダンにおけるルカイニー教団(al-Tariqa al-Rukayniya)のスーフィー達とサラフィー主義者の間で論争が行われている「執り成し(wasita)」について発表を行った。サラフィー主義者達はクルアーンなどに基づいた明確な裏付けを用いて「執り成し」を異端的だと批判するが、対するルカイニー教団のスーフィーらも同様にクルアーン・ハディースを典拠として執り成しの合法性を主張する。先行研究では近代以降のムスリム社会において神秘主義的執り成しの重要性は薄まるとの見方が存在したが、丸山氏は本発表のスーダンの事例を基に「執り成し」が都市部においていまだ重要な役割を保っていることを明確に示した。質疑応答では現代スーダンにおいてなぜ「執り成し」がここまで重要性を持ちうるのかについてより詳細な議論が行われた。

 第五発表ではThierry Zarcone氏が発表はティジャーニー教団の創設者アフマド・ティジャーニー(Ahmad al-T?jani, d.1815)が描かれた着色石版の多くにガゼルが示されていることに着目し、そのイメージがどのように浸透しているかを考察するものであった。ディジャーニーとガゼルの親密な関係がモロッコでは口頭伝承により語り継がれている事例や、イスラーム世界における各地の聖者とガゼルをはじめとした動物との親密な関係が報告された。着色石版に描かれたティジャーニーとガゼルのイメージは、現代ではポストカードやプレート、ポスターなどを通じて商品化されることで、北アフリカのみならずヨーロッパにおいても流通しており、時代や地域を超えて浸透している「視覚的聖者伝」が示された。

最後の全体討論の時間では各発表に対する具体的な質問の他、時代・地域をまたがるスーフィズムの多様な在り方について包括的な議論も行われ、全体を通して「神秘主義・タリーカ・聖者(信仰)複合現象」のさらなる実証研究の充実及び理論精化のための貴重な視座を提示するコメントも多数あった。

(山本直輝:京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)