• 京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)、釜山外国語大学地中海研究所(IMS)共催第3回国際合同セミナー"Society and Culture of the Mediterranean World"
    (2014年2月4日 於京都大学)



    Program

    Opening Session (13:00-13:20) Chair: IMAMATSU Yasushi (Researcher of NIHU[1] and Visiting Associate Professor of ASAFAS[2])

    TONAGA Yasushi (Deputy Director of KIAS[3] and Professor of ASAFAS)
    "Welcome Speech"

    Yoon, Yong-Soo (Director of IMS[4] and Professor in Arabic Dept)
    "Greeting Speech"

    Session 1: Religion and Society in the Mediterranean World (13:20-14:20)

    Chair: Choi, Chun-Sik (Previous Director of IMS and Professor in French Dept)

    Woo, Duck-Chan (Professor in Turkish and Central Asian Dept)
    "The Possible Solution of the Alevi Issue in Turkey"

    MARUYAMA Daisuke (Postdoctoral Research Fellow of Japan Society for the Promotion of Science, Kyoto University)
    "Ethics and Education: Comparison between al-Tariqa al-Qaridiya and al-Tariqa al-Rukayniya in Sudan"

    Session 2: Politics and Society in the Mediterranean World (14:40-15:40)

    Chair: Yoon, Yong-Soo

    KURODA Ayaka (Graduate Student, ASAFAS)
    "Islamic State and Religious Coexistence: Visions of Islamic Intellectuals in Egypt"

    KOSUGI Yasushi (Director of KIAS and Professor of ASAFAS)
    "Nationalism, Confessionalism and Democratization: Reflections on Civil War in Syria"

    Session 3: Culture and Society in the Mediterranean World (16:00-17:00)

    Chair: NAGAOKA Shinsuke (Associate Professor of ASAFAS)

    Kang, Ji-Hoon (HK Researcher in IMS)
    "A Study on Electronic Culture Atlas for Mediterranean Region Research"

    Park, Eun-Jee (HK Research Professor in IMS)
    "Maghrebi stardom in contemporary French cinema: the case of Sami Bouajila"

    Closing Session (17:00-17:20)

    Chair: IMAMATSU Yasushi

    KOSUGI Yasushi
    "Closing Remarks"




セッション1:Religion and Society in the Mediterranean World

 丸山氏はスーダンで活動しているカーディリーヤ・アラーキーヤ教団とルカイニーヤ教団の間の衝突と彼らの言説から読み取れる倫理と教育問題について発表した。カーディリーヤ・アラーキーヤ教団はスーフィズムを人間性の源泉とみなし、ズィクルなどのスーフィズムの実践を重視する。彼らはサラフィー主義者達を過激派、テロリストとみなしスーフィー達の「寛容性」を強調する。一方、ルカイニーヤ教団「教友(サラフ)のスーフィズム」を自称し、サラフィー主義者や他のスーフィー教団とも違う「中道の道」、「正しき道」であると主張する。これらの教団ではしばしばアッラー、ムハンマドへの愛や寛容性が倫理として説かれるものの、スーフィーとサラフィーの間では頻繁に衝突が起こっているのも事実である。また丸山氏はスーダンのスーフィー教団はエジプトのスーフィー教団との関係があり、「サラフィー・スーフィー主義」などといったスーフィズムの言説も、スーダン国内だけではなくエジプトなど国外のスーフィズムとの知的連関の中でとらえる必要があると今後の研究の課題も述べた。

 Chan氏は1990年代以降活発に議論されるようになったトルコのアレヴィー問題に関して、その歴史的経緯と今後の展望について発表した。アレヴィーと言っても彼らの信条は諸教混淆的要素が強く定義するのは難しい。イスラーム・スンナ派とアレヴィーの関係はオスマン帝国期はアレヴィーを邪教とみなすことが多かったものの、近年ではアレヴィーたちの一部の集団は自分たちをスンナ派とみなすものが多い。近年では西洋的価値観をうまく吸収したイスラーム主義が、ケマリストが成しえなかったアレヴィーとの和解政策における進歩を挙げている。しかしアレヴィー問題は歴史的、文化的、感情的、経済的、政治的側面が重層的に影響しあう複雑な問題であり一朝一夕に解決するものではない。法的整備や対話政策、また文化的寛容性を育む教育の促進を着実に積み重ねていくことがアレヴィー問題の解決にとって重要である。

報告者:山本直輝(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)



セッション2:Politics and Society in the Mediterranean World

KURODA Ayaka (Graduate Student, ASAFAS)
"Islamic State and Religious Coexistence: Visions of Islamic Intellectuals in Egypt"

 黒田氏の発表は、現代エジプトにおいて活動を展開する中道派イスラーム知識人に注目し、特に、彼らのイスラーム国家像を宗教共存の視点から論じたものである。「知識人のサロン」と揶揄されることもある彼らの中でも、2012年のエジプト大統領選挙に出馬した希有な存在として、サリーム・アウワーの思想が取り上げられた。黒田氏の発表では、宗教・宗派ごとに一定の自治が認められていたオスマン帝国下のミッラ・システム(ミッレト・システム)が崩壊して以降を、ポスト・ミッラシステムと呼び、その現代的な再構築として、中道派知識人のイスラーム国家論を位置づけている。発表の中では、弁護士としての背景を持つアウワーの思想はムスリムと非ムスリムの権利と義務をどのように調整するのかといった点に主眼が置かれており、彼らの共存を可能にする憲法などの制度構築の必要性を主張しているという点が指摘された。

  KOSUGI Yasushi (Director of KIAS and Professor of ASAFAS)
"Nationalism, Confessionalism and Democratization: Reflections on Civil War in Syria"

 小杉氏の発表は現在のシリアにおける内戦をテーマとしており、特に反体制派の政治勢力の動きをアイデンティティの観点から論じている。まず、小杉氏は現在のシリアとその周囲のレバノン、パレスチナ、イスラエル、ヨルダンなどの国家群を拡大的に捉える「歴史的シリア」という言葉を用い、その分裂が当該地域における紛争の根源的な要因であるとしている。そこで、小杉氏はこの地域の人々にとっての宗教・宗派が、単なる信仰の問題ではなく、社会的アイデンティティとして機能している点を指摘し、現在のシリア内戦は様々なアイデンティティを持つ勢力によってシリア共和国が分裂していく過程であると論じた。そして、小杉氏は最後に「nナショナリズム」という分析概念を提起し、歴史的シリアにおいては、様々な局面に応じて「n」にあらゆるアイデンティティが代入され、イデオロギー化する構造があることを指摘した。

報告者:山本健介(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)



 第3セッションは地中海世界における文化と社会がテーマであった。
 第一の報告は電子文化地図の作成及び海外研究への活用を論じたものであった。中世の十字軍遠征の進路を例にとってGoogle Earthを用いた3次元衛星地図の利用が紹介された。3次元衛星地図の利用によって、地図の拡大縮小が可能となるほか時間的広がりも地図上で表現でき、それをウェブ上で共有できるなどの利点が論じられた。
 質疑応答では3次元衛星地図を単なる人間活動に限って用いるのではなく、生態系も同時に考慮に入れて利用する必要性、また3次元衛星地図が人文科学と連携をとっていく必要性という視点から議論が行われた。
 第二の報告は現代フランス映画のスター性の変化を北アフリカ出身の俳優Sami Bouajilaを題材として論じたものであった。従来、スターは伝統的な国家アイデンティティーの理想像を象徴するものであった。フランスでは、フランス生まれのフランス人がスターとしてその役割を担ってきた。ところが、近年国家横断的な映画が流行となると、スターは文化横断的な象徴として重要な役割を担うようになる。近年フランスでは北アフリカ出身のスターが増加していおり、彼らの体現するイメージは、フランス社会の中で疎外されたアウトサイダーとしての移民という存在にとどまるのではなく、フランス社会でのアイデンティティーの多元性、複合性を肯定的に示す存在へと変化してきているのである。
 質疑応答では、フランスにおけるアラブ系人口の増大がもたらす映画界の変化や、北アフリカ三国に対するフランス人の認識の相違といった点について議論が行われた。

 

報告者: 渡邊 駿(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)