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7th Kyoto-Durham International Workshop in Islamic Economics and Finance New Horizons in Islamic Economics
(2012年2月11-12日 於京都大学)
タイトル:"Socio-Economic Role of Islamic Finance and its Potential in the Post-Capitalist Era"
【プログラム】
[Date and Venue]
日時:2013年10月1日(火)13:00-18:15、2日(水)9:00-10:45
場所:京都大学本部構内総合研究2号館(旧工学部4号館)4階会議室(AA447号室)
[Language]
English
[Program]
DAY1
13:00-13:15: Opening Remarks
13:15-14:45: Keynote Session
Dr. Mehmet Asutay (Durham University)
"Locating Islamic Moral Economy within Emergence Economics: A Search in Post-Capitalist Era"
Prof. Yasushi Kosugi (Kyoto University)
"Principal and Strategic Tasks of Islamic Economics in the Current and Coming Decades"
15:15-17:15 Session 1: New Waves of Islamic Economics
Dr. Shinsuke Nagaoka (Kyoto University)
"Revivals of the Traditional Islamic Economic Institutions with Novel Devices in the Second Decade of the 21st Century"
Alija Avdukic (Durham University)
"Social Welfare Functions and Public Choice from the Islamic Political Economy Perspective: Correcting the Failure of Islamic Banking and Finance"
Dr. Maszlee Malik (International Islamic University Malaysia)
"Islahi Social Capital: a Conceptual Approach Towards Faith-Based Development and Poverty Alleviation"
Frauke Demuth (Durham University)
"Parallel Universes - What Islamic Finance can learn from Socially Responsible Investment"
17:30-18:15 Session 2: Case Studies of GCC in Islamic Finance
Elena Platonova (Durham University)
"The Relationship between Corporate Social Responsibility Disclosure and Financial Performance: Empirical Evidence from GCC Islamic Banks"
Tareq Hesham Moqbel (Durham University)
"Examining the Sharia compliancy and the Realisation of Maqasid Al Sharia at the Contractual and Socio-Ethical Levels: The Case for Islamic Project Finance"
Ai Kawamura (Kyoto University)
"Islamic Finance's Exit from Dubai Shock: An Assessment of Dubai Approach from Financial Dispute"
Day 2
9:00-10:30 Session 3: Case Studies of Southeast Asia in Islamic Finance
Dr. Azila Abdul Razak (Sultan Idris Education University)
"Economic Significance of Mosque Institution in Malaysia"
Dr. Dian Masyita (University of Padjadjaran)
"Islamic Microfinance in Indonesia: An Empirical Research"
10:30-10:45: Closing Remarks
イスラーム経済を主題とした本ワークショップは、京都大学イスラーム地域研究センターと英国ダラム大学イスラーム金融教育センターとの共催により、2日間に渡って開催された。通算7度目を迎える本ワークショップでの発表者は、双方の大学の研究者・大学院生、ダラム大学で博士号を取得した東南アジアからの研究者で構成され、また各発表者の研究対象に応じて、理論セッションと事例研究セッションの2つに区分けされた形で行われた。
ワークショップの始めに行われた基調講演でのMehmet Asutay氏(英国ダラム大学)の発表は、イスラーム経済における理論研究の必要性を強調したものであり、続く理論セッションでの発表に対しても、重要な論点を与えているといえよう。氏の発表の中で、例えば近代経済学で代表的な概念である効用(utility)が、イスラーム経済という観点から、どのように規定されうるのかという問題が取り上げられている。そこから氏は、既存の経済学における諸概念を再構築し、イスラーム経済独自の新たなシステムを創出することが重要であるとの主張を下す。
小杉泰氏(京都大学)は、1990年代における日本のバブル崩壊やリーマン・ショックを例に挙げて、現在、主流とされている金融資本主義システムには、バブル経済、ひいては経済危機を招くというプロセスが内在しているとの主張を行った。そこで氏は、このような問題に対抗しうる代替策として、人間性に価値を置くイスラーム経済システムを提起した。また、氏は議論の中で、現代資本主義システムを大船、またイスラーム経済システムを小舟に例え、世界経済が経済危機に陥る、つまり大船が沈んだ際に、小舟としてのイスラーム経済システムが重要な救援策なりうることを示唆した。
理論研究セッションでは、ワクフ・ザカートといった伝統的なイスラーム経済システムの復興に関する発表や、イスラーム経済の観点から福祉(welfare)システムを構築しようとする発表が行われた。発表後には、イスラーム福祉システムと従来型のそれが、いかに区別されうるのかという問題などについて議論が交わされた。
事例研究セッションでは、各発表者のテーマ、対象地域に応じて、多岐にわたる発表、議論が行われた。例えば、GCC諸国のイスラーム銀行を対象に、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility, CSR)と財務業績との関係を計量分析の手法を用いた実証研究の成果を示された発表や、イスラーム金融手法におけるイスラーム法の目的(マカースィド・アッ=シャリーア)の達成度を数値化し、プロジェクト・ファイナンスにおけるイスラーム法の適合性に評価を行った発表が例として挙げられる。これらの発表は、イスラーム経済の実践を研究する上で、どのように数式・数値化を分析に適用するべきかという重要な問題を示唆しているといえよう。
本ワークショップでは、「従来の経済システムとの差異は何であるか」といったイスラーム経済の本質やその存在意義を問う議論が活発に交わされた。イスラーム経済研究を行う上で、このような問題意識は、本ワークッショップが題する「新たな知の地平」(New Horizons)を認識するために重要な役割を果たすといえよう。
報告者:上原健太郎(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)