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京都大学イスラーム地域研究センター(KIAS)/京都大学科学研究費基盤(A)「環インド洋地域における宗教復興・テクノロジー・生命倫理」/マレーシア国民大学イスラーム経済金融研究センター(UKM-EKONIS)共催国際WS
(2012年9月25日 於京都大学)
タイトル:1st KIAS-EKONIS International Workshop in Islamic Economics and Finance
Revitalization and Organic Integration of Islamic Economic Institutions
日時:2012年9月25日
場所:京都大学総合研究2号館4階大会議室(AA447)
共催:
Grant-in-Aid for Scientific Research (A) "Revival of Religion, Technology and Bioethics in the Indian Ocean Area";
Center for Islamic Area Studies at Kyoto University (KIAS);
Research Center for Islamic Economics and Finance (EKONIS), Universiti Kebangsaan Malaysia (UKM), Malaysia
【プログラム】
10:00-10:15: Opening Remarks
10:15-11:00: Keynote Session
Keynote Speech 1
Prof. Yasushi Kosugi (Kyoto University)
"The Scope and Tasks of Islamic Economics: An Civilizational Approach"
11:15-12:45: Session I Frontier of Studies in Islamic Economics and Finance
Dr. Shahida Shahimi (Universiti Kebangsaan Malaysia, Kyoto Unverisity)
"Are Sukuk Debt or Equity? Revisiting Theory in Islamic Economics and Finance"
Mohd Badrul Hakimi Daud (Universiti Kebangsaan Malaysia)
"Sukuk Fundemantals"
Dr. Mohd Adib Ismail (Universiti Kebangsaan Malaysia)
"Agency Problem in Islamic Partnership Contracts"
14:00-15:30: Session II Theory and Practice of the Revitalization and Organic Integration of Islamic Economic Institutions
Dr. Shinsuke Nagaoka (Kyoto University)
"Dynamics of Islamic Economics after the Boom of Islamic Finance: A Vision for Neo-Capitalism or New Universal System?"
Dr. Suhaili Alma'amun (Universiti Kebangsaan Malaysia)
"The Application of Hibah in Takaful and Insurance Policy: A Comparison Study between Malaysia and Singapore"
Dr. Muhammad Hakimi Mohd Shafiai (Universiti Kebangsaan Malaysia)
"The Applicability of Waqf Instruments in Activating Idle Agricultural Land in Malaysia"
16:00-17:30: Session III Emergence and Challenges of the New Fields in Islamic Economics
Ai Kawamura (Kyoto University)
"Innovation of Dispute Resolution for Islamic Finance in Dubai: Ad hoc Approach or Products-Oriented Approach?"
Dr. Salmy Edawati Mohd Yaakob (Universiti Kebangsaan Malaysia)
"The Prospect of Gold Dinar as a Currency: Physical or Gold Backed?"
Hafizi Ab Majid (Universiti Kebangsaan Malaysia)
"Prospect, Challenges and Shariah Issues of Gold Investment in Malaysia"
17:30-18:00: Closing Remarks & Photo Session
本ワークショップは、近年、新たな展開を見せ始めているイスラーム経済、イスラーム金融の新動向に焦点を当て、そのような新動向の動態およびそれを支えている理論的・思想的・歴史的背景を議論するために開催された。
ワークショップは、大きく4つのセッションに分けて議論が行われた。1つめの小杉泰氏(ASAFAS教授、共催科研代表、KIASセンター長)の基調講演では、イスラーム文明論の観点から、現在のイスラーム金融の実践の問題点および克服すべき課題が検討された。そこで触れられたイスラーム的なsocial managementの歴史的経験の再検討とそのテクノロジーの活用という視座は、イスラーム金融およびイスラーム経済の今後のあり方を考える上で非常に重要な示唆であると感じられた。
2つめのセッションは、2000年以降のイスラーム金融の急成長を支えてきたスクーク(イスラーム型証券)の批判的検討が主に取り上げられた。そこでは、スクークという名称が類似概念とどのように区別される形で現代のイスラーム金融に登場してきたかといった点が議論されたり、イスラーム金融の安定性・競争力の観点から従来型金融におけるdebt、equityの両者のいずれにも属さない新たなスキームを伴ったスクークの開発が必要であることが議論された。
3つめのセッションは、イスラーム経済、イスラーム金融の新動向が取り上げられた。近年では、近代以前に活発に見られたイスラームの伝統的経済制度を、イスラーム金融のスキームを用いることで再度活性化させる動きが顕在化している。これを本ワークショップでは、イスラーム経済制度の有機的再結合(=Revitalization and Organic Integration of Islamic Economic Institutions)と呼び、ワークショップの副題にも掲げている。このセッションでは、そのような新動向を支えている理論的・思想的背景の紹介、世代間での富の再分配における自発的贈与(hiba)の活用、遊休農地の開発における寄進制度(waqf)の活用といった新しい可能性が論じられた。
4つめのセッションでは、これまでのイスラーム金融研究ではあまり注目されてこなかった民事紛争解決制度や貨幣的側面が取り上げられた。民事紛争解決制度については、近年、イスラーム的に望ましい形での制度構築の動きが活発化しているが、その先駆であるUAEの事例が紹介された。貨幣的側面については、近年、ローカルなレベルで試験的な導入が行われているイスラミック・ディーナールの実行可能性についての理論的検討、イスラーム的な金投資についての実証的検討が議論された。
京都大学(ASAFASおよびKIAS)は、本ワークショップの共催相手であるマレーシア国民大学のEKONIS(Research Center for Islamic Economics and Finance)と、2009年から様々な形で研究協力を行っている。今回のワークショップには、EKONISの気鋭の次世代研究者が複数参加したが、未来志向の展望の開ける議論が行われただけではなく、イスラーム経済の基礎研究を掲げている京都大学(ASAFASおよびKIAS)と、イスラーム金融の実践に近いところで現場感覚を持って研究をしているEKONISとの間で、互いの得意とする方法論を交わらせたことで、きわめて実りのある議論を交わすことができたように思われる。
(長岡慎介・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)