-
KIAS/SIAS/科研基盤B「近現代スーフィズム・聖者信仰複合の動態的研究」共催国際WS
(2011年7月24-25日 於京都大学)
タイトル:"From Elites to People: Cross-border Approach for Understanding Muslim Society"
【プログラム】
[Date and Venue]
Date:24 and 25 July, 2011.
Venue:Meeting Room (447) on 4th floor of Research Bldg. No.2, Yoshida Main Campus, Kyoto University
[Language]
English
[Organizers]
AKAHORI Masayuki (SIAS)
TONAGA Yasushi (KIAS)
TAKAHASHI Kei (SIAS)
IMAMATSU Yasushi (KIAS)
[Secretary-general]
MARUYAMA Daisuke (Kyoto University)
[Commentators]
Hamit ER (Canakkale Onsekiz Mart University, Turkey) Michaela Pelican (University of Zurich, Switzerland) Nathan Badennoch (Kyoto University)
[Program]
First Day: 24 July
13:00-13:10 Opening Remarks: Tonaga Yasushi (Kyoto University)
First Session: Various Aspects of Islamic Thought
13:10-13:40 Ishida Yuri (Kyoto University) The Concept of Soul (Nafs) in al-Hujwiri's Unveiling the Veiled (Kashfal-Mahjub)
13:40-14:10 Endo Haruka (Kyoto University) The Theory of Sainthood according to 'Abd al-Wahhab ibn Ahmad al-Sha'rani
14:10-14:40 Idiris Danismaz (Turkey Japan Cultural Dialog Society) Interpretation on Ibn Arabi's Thought in Contemporary Turkey: 'the Perfect Man' in Gulen's "Kalbin Zumrut Tepeleri (Emerald Hills of the Heart)"
14:40-15:10 Futatsuyama Tatsuro (Kyoto University) The Livelihood and the Meaning of Olive in Southeast Tunisia
Second Session: Travel, Visit and Pilgrimage in Muslim Society
15:30-16:00 Yasuda Shin (Kyoto University) Islamic Travel Agencies and their Influences in Muslim Society: A Case of Syrian Shi'ite Religious Tourism
16:00-16:30 Adam Acmed (Sophia University) Perceptions of the Pilgrimage to Mecca by Mindanaon Muslims: Oral History Accounts of the Hajj of Lanao del Sur Pilgrims from the 1960s-1980s
16:30-17:00 Uchiyama Akiko (Kyoto University) New Aspects of Visit to Emamzadeh for Iranian Women of Nowadays
Third Session: Beliefs and Activities of Tariqa 17:20-17:50 Maruyama Daisuke (Kyoto University) The Relationship between Sufism and Salafism in Contemporary Sudan: A Case Study of al-Tariqa al-Rukayniya
17:50-18:20 Eloisa Concetti (Duhram University) The Early Background of the Mujaddidiyya in Xinjiang
[Second Day: 25 July]
Fourth Session: Narrating Nation and History
9:00-9:50 Miyokawa Hiroko (Sophia University)“Egyptian Pharaonism and Its Impact on the National Integration of the Coptic Christians”
9:50-10:20 Nakamura Haruka (Sophia University)“The narration of the colonial history in textbook: The Case of Algeria”
Fifth Session: The Relationship between Islam and Other Religions
10:30-11:00 Horiba Akiko (Sophia University)“Migration and Identity formation: The Muslim.Christian Conflict in Maluku, Indonesia”
11:10-11:50 Comments and General Discussion
11:50-12:00 Closing Remarks
概要:
7月24、25日に、京都大学において、イスラーム地域研究KIAS、SIAS共同開催の若手研究者ワークショップが開催された。このワークショップは四セッションに分かれており、7月24日におこなわれた第一セッションでは、「イスラーム思想の多様性」をテーマとして、石田氏(京都大学)、遠藤氏(京都大学)、Danismaz氏、二ツ山氏(京都大学)の4名が報告をおこなった。
石田氏は、フジューイリーの著作Unveiling the Veiled (Kashf al-Mahj?b)における人間(human nature)の概念について報告をおこなった。石田氏は、その中で、フジューイリーは人間の体を、善としての精神(spirit)と悪である魂(soul)が存在する器としてみなしており、その全体をもって人間が定義されることを分析した。
遠藤氏は、アブドゥルワッハーブ・イブン・アフマド・アッシャラーニによる聖人「wal?」についての理論の特徴を論じた。Wal?は共同体を正しく導くために法に従うで存在であることなどを明らかにし、最後にイブン・アラービーの影響を示した。
Danismaz氏は、Gulenによる「完全な人間」(al-ins?n al-k?mil)に対する解釈について、彼の著書Emerald Hills of the Heartからの分析をおこなった。その中でal-ins?n al-k?milは宗教的な条件により何時でも現れること、神と認識的、人とは倫理的関係を持つこと、そしてGulenがイブン・アラービー思想の広範化を試みていることを指摘した。
二ツ山氏からは、チュニジア南東部での例に即したオリーブの木とオリーブ油が持つ宗教的な機能について報告がなされた。当該地域において、聖者がもつバラカが、同様にオリーブという人々に身近な存在にも備わっており、社会や環境に結びついた対象物にもあらわれること述べた。
続く第二セッションは、「イスラーム社会における旅行、観光と巡礼」をテーマとした。このセッションで発表をしたのは、安田氏(京都大学)、Acmed氏(上智大学)、内山氏(京都大学)の3名である。 安田氏は、シリアのシーア派の宗教的な旅行における観光産業の役割について論じた。イスラーム旅行代理店は、観光産業にかかわる主体の要望や利害を調節し、サービスを提供するという、そのネットワークの中で中心的役割を担った独立した主体であること、またこれを通して、シリア・シーア派の宗教的な観光産業が形成されたことを指摘した。
Acmed氏は、フィリピン・ミンダナオ島のムスリムのメッカ巡礼について報告した。メラナオというムスリム民族集団に焦点をあて、現地で収集したオーラルヒストリーをもとにし、巡礼への動機やその目的、1950年代から1990年代のイスラーム化がミンダナオ・ムスリムの巡礼に与えた影響などを報告した。
内山氏からの報告は、今日のシーア派による聖者廟参詣が持つ新しい側面に関するものである。内山氏は、一つには、人々にとって理論上メッカ巡礼などよりも下位におかれている聖者廟への参詣は巡礼の代替ではなく、彼ら自身の選択によって訪問されていること、二つには、女性にとって新たな人的交流をもつ場として機能していることを指摘した。
7月24、25日に、京都大学において、イスラーム地域研究KIAS、SIAS共同開催の若手研究者ワークショップが開催された。このワークショップは四セッションに分かれており、7月24日におこなわれた第一セッションでは、「イスラーム思想の多様性」をテーマとして、石田氏(京都大学)、遠藤氏(京都大学)、Danismaz氏、二ツ山氏(京都大学)の4名が報告をおこなった。
石田氏は、フジューイリーの著作Unveiling the Veiled (Kashf al-Mahj?b)における人間(human nature)の概念について報告をおこなった。石田氏は、その中で、フジューイリーは人間の体を、善としての精神(spirit)と悪である魂(soul)が存在する器としてみなしており、その全体をもって人間が定義されることを分析した。
遠藤氏は、アブドゥルワッハーブ・イブン・アフマド・アッシャラーニによる聖人「wal?」についての理論の特徴を論じた。Wal?は共同体を正しく導くために法に従うで存在であることなどを明らかにし、最後にイブン・アラービーの影響を示した。
Danismaz氏は、Gulenによる「完全な人間」(al-ins?n al-k?mil)に対する解釈について、彼の著書Emerald Hills of the Heartからの分析をおこなった。その中でal-ins?n al-k?milは宗教的な条件により何時でも現れること、神と認識的、人とは倫理的関係を持つこと、そしてGulenがイブン・アラービー思想の広範化を試みていることを指摘した。
二ツ山氏からは、チュニジア南東部での例に即したオリーブの木とオリーブ油が持つ宗教的な機能について報告がなされた。当該地域において、聖者がもつバラカが、同様にオリーブという人々に身近な存在にも備わっており、社会や環境に結びついた対象物にもあらわれること述べた。
続く第二セッションは、「イスラーム社会における旅行、観光と巡礼」をテーマとした。このセッションで発表をしたのは、安田氏(京都大学)、Acmed氏(上智大学)、内山氏(京都大学)の3名である。 安田氏は、シリアのシーア派の宗教的な旅行における観光産業の役割について論じた。イスラーム旅行代理店は、観光産業にかかわる主体の要望や利害を調節し、サービスを提供するという、そのネットワークの中で中心的役割を担った独立した主体であること、またこれを通して、シリア・シーア派の宗教的な観光産業が形成されたことを指摘した。
Acmed氏は、フィリピン・ミンダナオ島のムスリムのメッカ巡礼について報告した。メラナオというムスリム民族集団に焦点をあて、現地で収集したオーラルヒストリーをもとにし、巡礼への動機やその目的、1950年代から1990年代のイスラーム化がミンダナオ・ムスリムの巡礼に与えた影響などを報告した。
内山氏からの報告は、今日のシーア派による聖者廟参詣が持つ新しい側面に関するものである。内山氏は、一つには、人々にとって理論上メッカ巡礼などよりも下位におかれている聖者廟への参詣は巡礼の代替ではなく、彼ら自身の選択によって訪問されていること、二つには、女性にとって新たな人的交流をもつ場として機能していることを指摘した。
(中村遥・上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士前期課程)
第三セッションでは、丸山大介氏(京都大学)とEloisa Concetti氏(Durham大学)の両氏による発表が行われた。丸山氏による "The Relationship between Sufism and Salafism in Contemporary Sudan: A Case study of al-Tariqa al-Rukayniya"と題された発表では、スーフィズムとサラフィズムとの関係が、スーダンのルカイニーヤ教団の事例をもとに論じられた。同教団では、スーフィズムは「イスラームの方法に基づいた教育」として捉えられ、それはサラフィズムと対立関係にはないことが結論として示された。次にConcetti氏による発表 "The Early Background of the Mujaddidiyya in Xinjiang (China)" では、18-19世紀の中国におけるナクシュバンディー・ムジャッディディー教団の歴史的展開が、当時のシャイフに関する論述を通じて考察された。過去を繙くことにより、同教団の中国における浸透と発展を明らかにしようとしたものであった。両氏の発表に対してそれぞれフロアーからは、スーフィズムとサラフィズムという対立するもの同士がいかに統合されるのか、中国でのフィールドワークはどのようなネットワークを用いて行ったのかなどの質問が寄せられた。
(遠藤春香・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)
第四セッションでは「国家と歴史の語り」と題され、2名が発表を行った。
三代川寛子氏(上智大学)は、エジプト人のナショナリズムを古代ファラオ時代との関連性から論じた。自らをファラオの子孫であるとし、その文化的遺産の相続人であるとする意識は、中世において既にみられ、コプト教徒との関連があると考えられていた。近代では、自らのアイデンティティを古代ファラオと関連付ける考え方は、ムスリムを含めて広く一般的に流布しており、1920年代後半には文学や建築分野において、ファラオをモチーフとしたものが流行した。そのブームの後は、イギリス統治下における政治的な意図もあり、コプト教徒がファラオの子孫として位置づけられるようになる。このように、歴史の中で変容しつつも、古代ファラオはエジプト人のアイデンティティやナショナリズムに大きく関係している。それにもかかわらず、この点に着目してナショナリズムを考察する研究は充分になされておらず、その必要性が指摘された。
中村遥氏(上智大学)はアルジェリアの教科書における歴史の記述から、フランスによる植民地時代と独立戦争がどのように描かれているのかを論じることで、政府によってつくられた「標準的な国民の歴史」について論じる。小学校4・5年の歴史の教科書における内容から、植民地時代と独立戦争についての記述が多くなされ、植民地時代を否定的にとらえる側面が、独立に導いた政党(FLN)によって強調されている側面が示された。その一方で、植民地時代の歴史が、現在のアルジェリアに多大な影響を与えていることも指摘された。
第五セッションでは「イスラームと他の宗教との関係」と題され1名が発表を行った。
堀場明子氏(上智大学)は、インドネシアのマルク州で1999年以降にムスリムとクリスチャンとの間で起こった紛争を事例に、移住者と宗教アイデンティティの関係について論じる。マルク州においては、1950年代に政府の政策によりジャワ島から移住してくる集団と、1970年代に南スラウェシ島から自主的に移住してくる者が増え、商業活動などにおいて、地域社会(特に州都のアンボン)に大きな変化をもたらす。スハルト政権下ではムスリムの政治進出が促進されたこともあり、ムスリムの影響力が強まっていた。そのような経緯の中で、実際には様々な民族集団があるにも関わらず、アンボンのクリスチャンは、移住者を自分たちの社会を大きく変化させるムスリムとして位置づけたとする。このように、ムスリムの著しい人口増加による社会変化が、宗教間の相違というかたちで象徴され、対立と紛争にまで発展した事が示された。
三代川寛子氏(上智大学)は、エジプト人のナショナリズムを古代ファラオ時代との関連性から論じた。自らをファラオの子孫であるとし、その文化的遺産の相続人であるとする意識は、中世において既にみられ、コプト教徒との関連があると考えられていた。近代では、自らのアイデンティティを古代ファラオと関連付ける考え方は、ムスリムを含めて広く一般的に流布しており、1920年代後半には文学や建築分野において、ファラオをモチーフとしたものが流行した。そのブームの後は、イギリス統治下における政治的な意図もあり、コプト教徒がファラオの子孫として位置づけられるようになる。このように、歴史の中で変容しつつも、古代ファラオはエジプト人のアイデンティティやナショナリズムに大きく関係している。それにもかかわらず、この点に着目してナショナリズムを考察する研究は充分になされておらず、その必要性が指摘された。
中村遥氏(上智大学)はアルジェリアの教科書における歴史の記述から、フランスによる植民地時代と独立戦争がどのように描かれているのかを論じることで、政府によってつくられた「標準的な国民の歴史」について論じる。小学校4・5年の歴史の教科書における内容から、植民地時代と独立戦争についての記述が多くなされ、植民地時代を否定的にとらえる側面が、独立に導いた政党(FLN)によって強調されている側面が示された。その一方で、植民地時代の歴史が、現在のアルジェリアに多大な影響を与えていることも指摘された。
第五セッションでは「イスラームと他の宗教との関係」と題され1名が発表を行った。
堀場明子氏(上智大学)は、インドネシアのマルク州で1999年以降にムスリムとクリスチャンとの間で起こった紛争を事例に、移住者と宗教アイデンティティの関係について論じる。マルク州においては、1950年代に政府の政策によりジャワ島から移住してくる集団と、1970年代に南スラウェシ島から自主的に移住してくる者が増え、商業活動などにおいて、地域社会(特に州都のアンボン)に大きな変化をもたらす。スハルト政権下ではムスリムの政治進出が促進されたこともあり、ムスリムの影響力が強まっていた。そのような経緯の中で、実際には様々な民族集団があるにも関わらず、アンボンのクリスチャンは、移住者を自分たちの社会を大きく変化させるムスリムとして位置づけたとする。このように、ムスリムの著しい人口増加による社会変化が、宗教間の相違というかたちで象徴され、対立と紛争にまで発展した事が示された。
(二ツ山達朗・京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科一貫制博士課程)