• 第1回「イスラーム経済とイスラーム法」研究会、報告書

    主催:京都大学イスラーム地域研究センター
    日時:2011年7月8日(金)、15:00~16:30
    場所:京都大学吉田キャンパス総合研究2号館4階第1講義室(AA401)



 本研究会は、京都大学イスラーム地域研究センターの研究ユニット3の基幹研究会である。今年度の第1回研究会は、マレーシア・イスラーム科学大学教授であり、名古屋大学経済学部客員教授として日本に滞在中(2011年7月まで)であるHajah Mustafa教授を迎えて開催された。Mustafa教授は、会計学が専門であり、近年、マレーシアにおいて成長著しいイスラーム金融における会計のあり方について、理論・実務の双方から先駆的な貢献をしている。本研究会では、氏のこれまでの研究成果にもとづいて、国際的な会計標準策定・採用といった近年の世界的な流れの中におけるイスラーム金融会計の位置づけについて報告がなされた。近年、多くの国が国際会計基準審議会(IASB)によって策定されている国際的な会計標準、すなわち、国際財務報告基準(IFRS)を採用し始めている。わが国でも、その導入の是非をめぐる議論がさかんに行われている。一方で、イスラーム金融においては、バハレーンに本拠を置くイスラーム金融機関会計監査機構(AAOIFI)が、イスラーム金融会計の国際的な標準作りを進めている。氏は、これらの動きから、イスラーム金融会計をめぐる現状は、2つの会計標準が並立する状況の中にあり、各国の金融当局の会計制度に関する政策(IFRSを採用するか否か)、および、イスラーム金融に対する政策(イスラーム金融を国内の金融システムにどう位置づけるか)によって、どのような会計基準をイスラーム金融機関が採用すべきかがめまぐるしく変わることになり、制度的にきわめて不安定な状態にあるとを指摘した。その上で、ダブル・スタンダード状態を解消するために、両者の会計標準を調和(ハーモナイゼーション)、あるいは収斂(コンバージェンス)させていくべきだとの見解を示し、その具体的方策について持論を展開した。氏の報告は、「特異な」かつ「世界的な存在感を増している」存在であるイスラーム金融を、国際金融システムや一国の金融システムの中で、どのように捉えるべきかを、会計という具体的事例に則して検討したきわめて興味深いものであった。フロアからは、IFRSがそもそも国際標準としてふさわしいものであるのか、そのような妥当性に対する疑義が出されることもある国際標準にイスラーム金融会計を敢えて調和・収斂させる必要があるのか、といった挑戦的な質問も出され、活発な議論が展開された。

文責:長岡慎介