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マリー・ジュール氏講演会
(2012年2月28日 於京都大学)
タイトル:Islamizing aid? International Muslim NGOs after 9.11
日時: 2月28日(火)14:00-17:00
場所: 京都大学本部構内総合研究2号館4階会議室
(http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/access/campus/map6r_y.htm)
言語: 英語(同時通訳なし)
プログラム
14:00-14:05 あいさつ (小杉泰(京都大学))
14:05-14:30 Introductory Lecture on Muslim NGOs (子島進(東洋大学))
14:30-16:00 講演 Islamizing aid? International Muslim NGOs after 9.11
16:00-16:20 休憩
16:20-17:00 質疑応答 (司会 子島進)
本講演会は、欧米を拠点として国境を超えた活動を行うイスラーム系/ムスリムNGOを中心に研究を行っているマリー・ジュール氏の初来日に合わせた講演会企画の一環として開催された。
"Islamizing Aid?"と題された京都での講演は、欧米および中東で設立されたいくつかのイスラーム系/ムスリムNGOに焦点を当て、それらのNGOが2001年の9.11以後、どのような状況に直面することで、その活動の性格を変容させてきたかについての分析が紹介された。
講演で取り上げられたイスラーム系/ムスリムNGO(Islamic Relief、Muslim Aid、IIROSA、IICO)は、いずれも1970~80年代に設立された比較的規模の大きなもので、その活動は広範にわたっている。講演の前半では、ジュール氏による綿密な資料調査、実地調査にもとづくこれらのNGOの概要が紹介された。ジュール氏の分析によると、9.11以後、とりわけ欧米におけるイスラーム系団体への視線が厳しくなる中、これらのNGOは次第に「世俗化(secularised)」されていったという。それ以前は、イスラームの教義やムスリム共同体の相互扶助といった、イスラーム特有の理念や目的を掲げて活動を行っていたが、9.11を境として、その掲げる理念をより「普遍的な」もの、例えば、人道的支援や社会的正義といったものにシフトさせていったという。そのようなNGO活動の理念のシフトは、欧米における支援者の獲得を容易にしたり、活動の範囲の拡大を容易にした一方で、NGO構成員の世代間での認識のギャップや、活動の支援者・援助先の間で、イスラームの理念と(ヨーロッパ起源の)「普遍」理念をめぐる様々な葛藤を生み出すことにつながっていることが指摘された。
質疑応答では、イスラーム系/ムスリムNGOの活動と援助国・被援助国の政治関係、NGOにおけるイスラーム的価値とは何であるかという問題、イスラーム金融の実践が抱える問題との類似性の指摘など様々な論点についての質問・コメントが寄せられ、大変熱のこもった議論が行われた。ジュール氏が焦点を当てた「世俗化」されたNGOのほかに、よりイスラーム性を鮮明に掲げるイスラーム系/ムスリムNGOも登場してきていることも、質疑応答の中で紹介され、今後、これらの多様なイスラーム系/ムスリムNGOをどのような分析枠組みで研究していくのかという論点は、とりわけ、多くの参加者の関心を呼んだとともに、様々な視角からイスラーム系/ムスリムNGOを研究することの可能性が開けたように思われた。
長岡慎介(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科)