イスラーム地域研究センター(Center for Islamic Area Studies, 略称KIAS)は、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科に附属するセンターとして、2006年に開設されました。
 この間、2006年から2011年まで、2011年から2016年までの2期10年にわたり、人間文化研究機構(NIHU)の「イスラーム地域研究」プロジェクトを受託し、遂行してきました。2016年4月からは、同じくNIHUから新しく「現代中東地域研究」プロジェクトを受託し、6年間の活動を開始しました。
 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科では、2004年に新しい「グローバル地域研究専攻」が設立され、その中に「イスラーム世界論講座」が設置されました。イスラーム地域研究・現代中東地域研究プロジェクトと有機的に結びついて、大学院教育がおこなわれ、若手の育成も進められてきています。
 イスラーム地域研究センターの大きな目的の一つは、アジア・アフリカ地域研究研究科と連動しての若手研究者の育成です。それには、人材を研究面で育成することだけではなく、若手が就くことのできるポジションを増加させることが必要です。
 現在は研究科に所属するイスラーム地域研究の専任教員3名に加えて、客員教員1名を擁しており、関西ではイスラーム/イスラーム世界、現代中東に関する最大の研究・教育拠点となっています。
 また、本センターの姉妹組織として、同じくNIHUのプロジェクトを受託している「南アジア研究センター」のほか、マレーシア国民大学との連携による「ハダーリー・イスラーム文明研究センター」、トルコ・ウスキュダル大学との連携による「ケナン・リファーイー・スーフィズム研究センター」が研究科附属センターとして設立され、本センターと協力しながら研究・教育を推進しています。
 このように順調に発展することができたのは、皆さまの温かいご支援の賜物です。これまでのご支援に、深く感謝申し上げます。
 ますます進展するグローバル化と共に、学術分野・研究領域としての地域研究の総体も、ネットワーク型研究を進めるべき重点地域としての現代中東地域研究も、いっそう責務が重くなっていきます。現代中東地域研究プロジェクトが始まるにあたって、皆さま方のいっそうのご支援、ご鞭撻をお願い申し上げる次第です。

イスラーム地域研究センター長
東長 靖



1.中心研究テーマ

 本事業の中心研究テーマは「地球規模の変動下における中東の人間と文化-多元的価値共創社会をめざして」とします。
 中東地域研究が、人間文化や人類の普遍性への地平を拓くことで新たな価値を創出できるような研究の現場であるためには、グローバル化という視点から中東地域を再定位し、同時に中東地域の視点からグローバル化を再定位する複眼的な分析ベクトルをもちながら、なおかつ「個」と社会(共同体)のあり方、つまり中東世界の人びとの世界のつながり方の現代的動態を、フィールド調査による現地の人びとの視点に立って解明するとともに、人類や人間文化という普遍的な価値をも視野に入れた研究を行います。
 具体的には、個々の人間が社会化する過程で起きる動員作用が資源化されている現代的動態に焦点をあて、人びとの世界の構築方法を解明します。個人が生きるローカルな生活空間とグローバルな社会空間を接合する問題系を

(1)文化資源(文化遺産、個人と世界観、宗教とマテリアリティなどの問題群)
(2)自然資源(生態系と生活空間、環境問題と人間、資源と環境ガバナンスなどの問題群)
(3)知的資源(情報環境、コミュニケーションと社会空間、伝統知と教養などの問題群)
(4)人的資源(高齢化、障害者、女性・子ども・若者、経済的弱者やマイノリティ、難民などの問題群)

  として整理したうえで、自然・社会環境と言語メディア環境にかかる地球規模の変動下において個人がいかに情報を入手し、それを知識としてストックし、さらにそれを資源として活用しているかという観点から、個人の再社会化ならびにそれらの相互作用の中に多元的価値を包摂/排除するかたちで共創される社会空間の実相を捉え直し、個から世界を構想するための地域研究の新たな方法論を開拓します。

2.研究拠点

 ネットワークに参加する研究機関(以下「研究拠点」という。)は、次の諸機関とします。

 1) 国立民族学博物館現代中東地域研究拠点
担当分野:文化資源/「個人空間の再世界化」をテーマとし、文化知識の資源化に焦点をあてます。
代表 西尾哲夫(国立民族学博物館・教授)

 2) 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
担当分野:人的資源(制度的側面)/「人間の移動・交流によるネットワークの構築」をテーマとし、政治知識の資源化に焦点をあてます。
代表 近藤伸彰(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・教授)

 3) 上智大学イスラーム研究センター
担当分野:人的資源(非制度的側面)/「中東的な<公共>の多元的展開」をテーマとし、倫理知識の資源化に焦点をあてます。
代表 赤堀雅幸(上智大イスラーム研究センター長)

 4) 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科附属イスラーム地域研究センター
担当分野:知的資源/「穏健主流派の形成」をテーマとし、宗教知識ならびに経済知識の資源化に焦点をあてます。
代表 東長靖(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科附属イスラーム地域研究センター長)

 5) 秋田大学国際資源学部
担当分野:自然資源/「環境問題と多元的資源観」をテーマとし、自然知識の資源化に焦点をあてます。
代表 佐藤時幸(秋田大学国際資源学部長)



3.ネットワークの形成と運営

 研究拠点は、相互に協力連携してネットワークを形成します。研究拠点の役割分担、ネットワークの運営、共同事業の実施等について協議するため、機構の総合人間文化研究推進センター(以下「推進センター」という。)の下に、同センターから選出された代表者及び研究拠点の代表者等で構成する「現代中東地域研究推進会議」(以下「推進会議」という。)を設置します。
 国立民族学博物館現代中東地域研究拠点は、ネットワークの中心拠点として、推進会議の協議に基づきネットワークを運営し、研究拠点の協力を得てネットワークの共同事業を実施します。また、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所はこれを助け、副中心的機能を果たします。

4.研究プロジェクトの推進

京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科附属イスラーム地域研究センター
研究テーマ「イスラーム穏健主流派の形成とその課題-知的資源の現代化と多元的諸潮流」
代表者 東長靖(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科附属イスラーム地域研究センター長)

【研究テーマの概要】
 国際社会の協調と発展にとって安定したイスラーム世界の実現が肝要だが、世俗主義との無用な摩擦、民主化の遅れ、国際システムの過剰な介入等のために、穏健主流派の形成が阻害され、過激派が伸長しています。穏健主流派を知的資源の現代化の観点から分析し、その多元的潮流について宗教知識や経済知識の資源化の面から解明します。

【研究目標】
 伝統的イスラーム学を担うウラマーとスーフィーを伝統知と教養の変容の観点から、現代イスラーム世界のメディアを情報環境・コミュニケーションと社会空間の観点から、イスラーム中道派やイスラーム経済の動向をイスラーム型相互扶助の観点から分析することで、過激派対策に係る外交政策等の現代的課題を解決するための基盤をつくります。

5.国際協力の推進と国際ネットワークの構築

 研究拠点・ネットワークは、海外の大学・機関と連携協力して、海外の研究者との共同研究、研究集会、研究者の交流等を推進し、主要関連研究組織と提携して国際ネットワークの形成を進めます。本事業において副中心的機能を果たす東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所が運営する中東研究日本センター(在ベイルート)および上智大学が運営するカイロ研究センターを、フィールド調査、国際ワークショップ、留学生支援等に活用することで、中東地域における研究ネットワークの構築に努めます。また、秋田大学の海外連携機関である紅海大学(スーダン)を研究連絡拠点として現地調査等のために活用することで、日本との研究協力が比較的進んでいない地域での研究ネットワークの構築に努めます。

6.大学の機能強化への貢献

 個別に研究活動が行われている大学の研究所、研究センターが人間文化研究機構を構成する研究機関が実施する共同プロジェクトに参画することで、大学間、あるいは大学と研究機関間の連携と情報共有を促進します。さらに大学共同利用機関が有する研究資源(研究資料、研究設備、人材など)を活用(共同利用)することで、研究を高度化させます。それによって、大学の研究機能の強化を図る。また、在学する学生、院生の教育、研究指導に人間文化研究機構の資源を活用することで、大学の教育機能の強化も図ります。これらのことを具体化する手段として、例えば現代中東研究の成果の還元のために、大学院生の組織的参加や冠講座による現代中東研究の講座の展開、各拠点の研究科間、学部間の連携や単位互換、夏期集中講座による連携事業を推進します。また大学が実施するスーパーグローバルハイスクール支援事業と連携した高校教育との接合も視野に入れます。

7.研究成果及び研究プロセスの国際的発信

 国際研究集会(ワークショップ、シンポジウム、フォーラムなど)を開催して、研究成果の公開を促進します。実施場所は日本に限らず、必要と目的に応じて、協定を締結した研究機関が置かれている国で実施して、研究成果を海外の機関からも発信します。
 Webを使った情報発信を行います。研究成果や研究情報を蓄積するために、中心拠点のサーバーに専用のスペースを設けるとともに、ホームページなどを開設して、研究情報や研究成果を随時Web上で発信します。その内容を検討するための委員会あるいは作業部会なども組織します。Webに上げられた情報、あるいは研究成果の中から、ハードコピーとして流通する価値にあるものを編集して、冊子体にして刊行します。言語は情報の国際的発信力を考えれば、英語やフランス語が有益だが、中東地域への現地還元の重要度を考えると、アラビア語等の中東諸語による成果発信も望ましいものとなっています。
 SNSなどを活用して、連携機関の成員、あるいは海外の連携機関の成員の間の議論や情報の共有化を図る。

8.研究人材の育成

 ・若手研究者の本事業参加促進
 研究拠点・ネットワークは、本事業の推進に当たり若手研究者が現地調査・共同研究、国際会議等へ参加できるよう、積極的に配慮します。

 ・大学院教育との連携
 研究拠点・ネットワークは、本事業の諸活動と成果が関連大学院教育、学部等専門教育に活用され、この分野の教育の充実発展に活かされるよう、関連機関との連携に努めます。